<本>「アントナン・アルトー伝〜打撃と破砕」

図書館で2回、3回と借りて読むうちどうしても手元においておきたくなり、ついに先日購入してしまった。

アントナン・アルトー。この名前、演劇関係者だって若い人はほとんど知らないんじゃないだろうか。
「残酷演劇」の提唱者。暗黒舞踏の成り立ちに影響を与えた人。生涯のかなりの時間を精神病院内で送った人。そんな彼の業績は、今では何冊かの著作(評論・シナリオ・小説など)と、映画俳優時代の出演作(カール・ドライヤー「裁かるゝジャンヌ」など)で確認できるのみとなっている。

演劇というナマモノに携わる身の宿命で、演劇作品そのものは残せない。となると残るのは「風聞」であり、これに尾ヒレがつくと「伝説」となるワケだ。
この伝記は、ともすれば「あの伝説の〜」と持ち上げてしまいそうになる奇才の一生を、丹念にかつ冷静に記録し、その業績を検証している。
何度目かに読んだ時、ひょっとしてこの人は「奇才」じゃなくただのはた迷惑な「奇人」だったのでは?と思えてしょうがなかった(今はそんなことないけどね)。著者はアルトーを過度に持ち上げることもなく、公正な視線と正当な敬意を保ったまま書き続けていて、最後まで乱れることはない。これは立派な評伝であり、何より非常にオモシロイ本だ。

それにしても、失敗に終わったというただ一つの残酷演劇「チェンチ一族」とはどんな芝居だったのかあ。知りたいなあ。