<演劇>「もとの黙阿弥」井上ひさし
大学時代、、ぼくが一番好きな劇作家は井上ひさしだった。
ぼくが生まれて初めて小劇場の舞台を踏んだ時のホンが、井上の2作目「さらば夏の光よ」だったのだが、この時はそれほど好きというワケでもなかった。「ブンとフン」は小学生の時に読んでいたし、「ひょっこりひょうたん島」の脚本家としても知ってはいたのだけど、それほど積極的な興味は持てずにいたのだ。でも、この「もとの黙阿弥」を観てからイッキにファンになってしまった。
83年、有名な「パズル」事件が起こる。書き下ろし上演の予定だった新作「パズル」が執筆途中で挫折し、上演中止になったという事件だ。
これは劇作家として致命的なのではないか、これから井上ひさしはどうするのだろう、と、ことの成り行きをぼくは興味深く見ていた。それからあまり間をあけずに上演されたのがこの「もとの黙阿弥」である。新機軸のミステリ劇となるはずだった「パズル」失敗の反動からか、この「もとの黙阿弥」はホントに古典的なコメディというフレコミだった。
なんたって顔ぶれがスゴかった。歌舞伎から片岡孝夫(現:仁左衛門)、TV界から大竹しのぶ、落語から古今亭志ん朝、新派から水谷良重(現:八重子)各界スターの顔見世興行といったオモムキ。
「オモシロかった。見といた方がイイよ」という友人のススメで観たい気持ちがかきたてられ、新橋演舞場まで行って来ました。いやー、オモシロかったなあ。
孝夫という人はそれまでよく知らなかったのだけど、あんなにトボケた味を出せる人とは思わなかった。オカシかったなあ。これでいっぺんで好きになってしまった。
さんざん笑わせて、ハッピーエンドかと思いきや、ドキリとさせるひとひねりがついている。(のちに、こういうトコロが井上ひさしらしさだと知るのだけど)
渡辺美佐子演じる女剣劇の座長の「この現実におりていく勇気がおあり?」という一言に、孝夫演じる華族のボンボンがしっかりとうなずく、というラストシーンは感動的であった。去年(2005年)、この芝居は再演されたんだけど、あの顔ぶれじゃチョットなあ、まるでTVドラマじゃないか。幻滅したくなかったから観に行かなかった。全然評判聞いてないんだけど、誰か観た人いるかなあ。