これまで『八十日間世界一周』の視覚化はマイケル・アンダーソン監督が一九五六年に製作した同名のアカデミー賞受賞映画など枚挙にいとまがないが、はたして、目の前で繰り広げられたのは、驚くべき低予算高品質の舞台であった。
なにしろ、登場する役者はほんの六名、そのうちの三名は少なく見積もってもひとりあたり一ダース分もの役柄を兼ねているため、舞台上であろうがおかまいなく、ひっきりなしに着替え続けるのだ。たったいまインドの象を演じていた役者が次の瞬間には密林の案内人と化したり、たったいま騎兵隊だった役者が次の瞬間にはアメリカ・インディアンになっていたり。
舞台背後ではCGを駆使した映像がつぎつぎと展開して国から国への移動を巧みに表現し、BGMはキーボードの生演奏を中心にドビュッシーの「月の光」から「スター・ウォーズ」や「太陽にほえろ!」のメインテーマ、「ツイスト&シャウト」まで抱腹絶倒の選曲が要所要所にハマっていく。
だが、そんなあわただしさ、めまぐるしさこそ、この物語にはいちばん似合う。
(巽孝之「この不思議な群島で」 すばる2009年4月号より転載)
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