第6回  かたる男

とあるジャズバー。カウンターで飲んでいた男(おの)が他の客を相手に、数々のホラ話を披露する。祖父であるほら男爵の冒険談や、もう一人の祖父である落語家が得意とした「弥次郎」というホラ噺……話しているうちに彼は、生涯でついたただ一つの「悲しいウソ」を思い出した……


開演前のながばなし

「大胆に、誠実にウソをつけ」

それが役者の心得だ、と言ったのは大学の先生だった。ぼくは、結構感動したものだ。

この言葉がその先生のオリジナルなのか、それとも先人の言葉だったのかは、まだ確かめていない。

しかし、冷静に考えると、「大胆に」はわかるけど、「誠実に」ウソをつく、というのはどういうことなのか?

ジョン・レノンはビートルズ時代に「ビートルズとは、とても素敵なウソなんだ。ぼくらは、人をダマしてもいいという権利を与えられたんだ。ならば、ダマし続けようじゃないか」と言ったそうだ。(のちに彼はそれがイヤになってしまったのだけど)でも、この言葉の後半は、全ての役者たちが言ってもいいことなのではないだろうか。

お客さん達はダマされたいのだ。役者とは、ウソをついてもいいと許された特権階級なのだ。それだけに、ミエミエのへたなウソをつくことは許されないのである。お客さんが、ウソと承知で見ていることさえ一瞬忘れてしまうような、見事なウソをつくべく、ぼくらは努力を重ねなければならないのではないか、それが「誠実さ」なのだと思う。

「偽(いつわり)」とは、にんべんにタメと書く。ウソいつわりというものは人のためになるのだ、と言う釈迦の教えである。これは役者に限らず、全ての人が肝に銘じておくべきことであろう。なお、これは言うまでもなくウソです。え、なに、信じたの?

それでは、開演までもうしばらくお待ち下さい。

※なお、今回の台本は「ほら吹き男爵の冒険」(ビュルガー編)、「弥次郎」(古典落語)、「古風な愛」(星新一)を基に作成しました。ここにお断りしておきます。

おのまさし